カテゴリー: 書物

『嫌われ松子の一生』

松たか子がマツコ・デラックスに変貌するような事件が起きてしまった。

 

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『嫌われ松子の一生』、山田宗樹さんの小説です。

かつてはほぼ誰の目から見ても「聡明で美しい女性」だった松子は、なぜ近所の住民から「嫌われ松子」と呼ばれる醜い存在になり果てたのか――。紆余曲折、波乱万丈な女の一生をミステリー仕立てで綴り上げた巨編でした。

ネタバレですが、
濃密な松子の生涯をかいつまんでみると、

 

・昭和気質の父親から認められたいという一心で、優等生になった。
・しかし父の関心を病気の妹に奪われた(と松子本人は認識)。
・中学教師になれたものの、校長との悶着があって離職。
・この時、ダメ男(教え子)を”かばう女”としての一面が開花。
・将来性のない文学青年に”貢ぐ女”と化す。
・文学青年が自殺。その親友と不倫。
・風俗嬢に転身。
・自分を働かせた男を殺害。
・自殺を思いつめる。
・助けてくれた相手と同棲。
・刑務所入り。
・恩人の影響で美容師に。
・教え子(ヤクザ)と関係を結ぶ。
・刑務所入りした教え子を”待つ女”になる。
・”捨てられる女”となる。
・腐る……。

 

細かいところで記憶のもつれがあるかもしれませんが、並べてみると、やることがやたらと女っぽいよね。その時々、行く先々で手近な男にすがって、状況に流されてしまっている。一見ありとあらゆる手段で生き抜いているようでありながら、松子は本当は主体的に生きられなかったとも読み取れます。

昭和20年代の話で、自立した女など愛されない(特に松子の父が望みそうにない。ここが病根だろうな)と知っている聡い(さとい)松子は、意外なほど運命に従順でした。

なぜなら、愛に飢えていたから――。

頑張って生きている自分が認められないことから来る根源的な不安は、案外、ごく当たり前の神経を持つ人を極端に走らせてしまう。

自分からは明らかに縁遠い人生にもかかわらず、「身につまされる」「誰にあってもおかしくない」と言いたくなるほど、引きずりこむ筆力がある小説でした。

どこもかしこもつらいこの転落ストーリーで、読んでいる最中にただ一度だけ大きく頷いた場面がありました。それは、愛を得るために自分磨きを怠らなかった松子の美貌を、元教え子が「まぶしすぎて怖かった」と評した瞬間。そうだね怖いよね、と納得してしまった。

直後、ただの一度、笑ってしまった。彼に逃げられた松子が「どうしてなのっ?」と打ちのめされる場面。ごめんね松子。その時ばかりは「必死すぎると冗談みたいに見えてくるなぁ」と感じてしまったのです。

それを境に、松子は容姿も知性もあえなく劣化、傍から見れば不幸のどん底状態に落ちこみながらも、やっと「愛されようとすることをやめる」に至ったのです。愛を乞う癖を手放すまでに、これだけ時間がかかった痛さ……。

しかし、いびつなものが輝いて、まぶしいものが怖く、醜いものが尊く、いろんな風に見えてくる。松子の死がたとえ滑稽であっても愛おしさもおぼえます。

 

多分、どんな自分であれ、存在することは許されている。

でも、この答えは、一度でも死にもの狂いになったことのある人間だけが手にしてほしい、と、祈りに近い思いを抱かせる物語でした。

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